ライフライン設置権に関する改正(令和5年4月~)

ライフライン設置権に関する改正(令和5年4月~)

〔ライフラインに関する民法の定め〕
 改正前の民法では、高地の所有者は、排水のために低地に水を通過させることができるという規定はありましたが、ライフライン(電気、ガス、水道など)に関して、他の土地に設備を設置したり、他人の設備を使用したりするための規定はありませんでした。
 改正民法によって、ライフラインに関しての規定が設けられ、どのようなルールに基づいて、どの範囲で設置などができるかが明確化されました。

 

〔ライフライン設置権とはどのような権利か〕
 ライフライン設置権というのは、土地の所有者が、「電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付」について、必要な範囲内で、他の土地に設備(導管や導線)を設置(=設備設置権)したり、他人が所有する設備を使用(=設備使用権)したりすることができる権利のことです。「電気」・「ガス」・「水道水」と条文にありますが、これは例示ですので、下水道や電話など広く対象となります(213条の2・1項)。
 そして、この権利は、他の土地や設備の所有者の承諾の有無にかかわらず、所定の要件を充たせば法律上発生する権利ですので、他の土地や設備の所有者は、これを受け入れなければなりません。

 

〔ライフライン設置権の発生要件〕
 ライフライン設置権は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ継続的給付を受けることができないときに、継続的給付を受けるために必要な範囲内で発生します。
 典型例としては、自分の土地が他の土地に囲まれているようなケースですが、例えば、土地に接している公道には水道管の本管がなく、隣地をはさんだ別の公道に敷設されている水道管から水道を引き込むような場合(つまり、他の土地に囲まれていないケース)でも、要件を充たすことがあります。
 そして、ライフライン設置権は、継続的給付を受けるために必要な範囲内で発生するものであり、設備の設置や使用の場所・方法は、他の土地や他人が所有する設備のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません(213条の2・2項)。したがって、例えば、他人の既存の設備を使用する方法が最も損害が少ないにもかかわらず、他の土地に導管を設置してしまえば、この要件を欠くことになります。
 なお、土地の分割や一部譲渡によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができます(213条の3)。

 

〔ライフライン設置権を行使する方法〕
 ライフライン設置権を行使する場合には、あらかじめ、その目的・場所・方法を、他の土地や他人の設備の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければなりません(213条の2・3項)。
 この通知は、隣地使用権の場合とは異なり、必ず、事前に通知することが必要とされています。もし、通知の相手方の所在などが分からない場合でも事前通知が必要になりますので、公示による意思表示(民法98条)の手続をとらなければなりません。
 仮に、事前の通知をせずに設備の設置などを行った場合は、行使要件を欠くことになりますので、不法行為が成立する可能性が出てきます。
 それから、ライフライン設置権を行使するに際しては、他の土地や他人の設備がある土地を使用することができ、隣地使用権のルール(居住者の承諾なしに住家には立ち入れないなど)に準じた土地の使用が認められています(213条の2・4項)。

 

〔償金の支払〕
 ライフライン設置権に基づいて、他の土地に設備を設置したり、設備を使用したりする場合には、そのことに伴って他人の土地や設備に関して生じた損害、具体的には以下の①~⑤についての償金を支払わなければなりません。 

  1. 他の土地に設備を設置する工事の際の損害(213条の2・4項→209条4項)
  2. 他の土地に設備を設置することによって土地が継続的に使用できなくなることによる損害(213条の2・5項。なお、1年ごとの定期払いも認められています)
  3. 他人の設備の使用を始めるために設備の所有者に一時的に生じる損害(213条の2・6項)
  4. 他人の設備がある土地の使用に関して一時的に土地に生じる損害(213条の2・4項→209条4項)
  5. 他人の設備の設置・改築・修繕及び維持に要する費用に関して、土地の所有者が利益を受ける割合に応じた費用

(2022年12月15日)