〔どのような場合に遺産分割が必要になるのか〕
 相続が開始し、相続人が複数いる場合には、共同相続人は、法定相続分や遺言によって指定された指定相続分の割合で遺産を共有することになりますが、これは一時的な状態に過ぎません。
 遺産の中に含まれている預貯金・現金・不動産などの個々の財産について、相続人のうちの①誰が、②何を、③どの程度取得するかが決まることでようやく相続手続が終わったといえますが、このことを遺産分割と呼んでいます。

 

〔具体的相続分による遺産分割〕
 遺産分割において、実際に各共同相続人に割り当てられる相続分額のことを具体的相続分と言います。具体的相続分は、共同相続人間の実質的な公平を実現するために、①特別受益と②寄与分という2つの点を考慮して決められるものです。
 まず、①「特別受益」は、贈与や遺贈を受けた共同相続人については、その分、受け取れる額を少なくするというものです。この点、一部の相続人だけが生命保険金を受領している場合、生命保険金については、特段の事情がない限り特別受益にはならないとされています。
 次に、②「寄与分」は、亡くなった人の財産の維持や増加に特別の貢献(寄与)をした共同相続人(例えば、亡くなった方の家業を長年ただ同然で支えた子どもがいるようなケース)について、その分、受け取れる額を多くするというものです。
 なお、これらの特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分の算定は、2023年4月に施行される改正民法によって、2023年4月よりも前に相続が開始した場合であっても、相続開始から10年を経過した後の遺産分割には原則として適用されません(=特別受益や寄与分を主張できません)ので注意が必要です。細かく言えば、特別受益や寄与分を主張できなくなるのは、①相続開始から10年が経過するとき、または②施行日から5年が経過するとき(2028年4月2日)のいずれか遅い時までとされています(附則3条)。したがって、2013年3月までに被相続人が亡くなっていたケースでは、2028年4月1日までであれば、遺産分割において特別受益や寄与分を主張できることになります。
 具体的相続分の内容は以上のようなものですので、仮に特別受益を受けた相続人も寄与をした相続人もいない場合には、遺言による指定があれば指定相続分、指定相続分がなければ法定相続分によって遺産分割をすることになります。

 

〔遺産分割をするための手続〕
 遺産分割については、いつまでにしなければならないという期間制限はありませんので、各共同相続人が、いつでも自由に遺産分割の請求をすることができます。
 具体的な手続として、まずは、共同相続人の間での協議や家庭裁判所の調停(つまり、話し合い)による方法で行いますが、話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所の審判により分割されることになります。
 話し合いによる遺産分割については、共同相続人全員が合意しさえすれば内容自体は何でもかまいませんので、具体的相続分とは異なる割合での分割(例えば、ある相続人の取り分をゼロにする内容での分割。いわゆる「事実上の放棄」)もできますし、また、遺言がある場合でも、遺言とは異なる内容の分割をすることもできます。
 これに対して、裁判所での審判による分割の場合には、特別受益や寄与分をふまえた具体的相続分を基準にして相続分額を定めることになります。

 

〔協議による遺産分割の一般的な流れ〕 

  1. 亡くなった方が遺言を作成していたかどうかを確認します
  2. 相続人が誰なのか(相続放棄をするかどうかも含みます)と法定相続分がいくらになるかを確認します
  3. 対象となる遺産を確認し、それぞれの価値を評価します(なお、債務は遺産分割の対象には含まれませんが、相続人の間で債務を内部的にどのように負担するかについて合意することはできます)
  4. 特別受益や寄与分の有無・額を確認します
  5. 誰が、何を、どの程度取得するかを決めます
  6. 遺産分割協議書を作成し、不動産登記などの必要な手続を行います

(2022年11月30日)