スカイプレミアム社の幹部の金融商品取引法違反での逮捕と被害者の損害賠償請求

スカイプレミアム社の幹部の金融商品取引法違反での逮捕と被害者の損害賠償請求

2024年2月21日、FX投資名目で約2万6000人から1350億円を集めたとされるスカイプレミアム社の最高経営責任者 斉藤篤史容疑者(45)ら4人が、国の登録を受けずに金融商品取引の仲介をした疑いで逮捕されたと報道されています。

 

逮捕の理由となった金融商品取引法違反とは

 今回逮捕の理由となったスカイプレミアム社の金融商品取引法違反ですが、具体的には、スカイプレミアム社のエージェントを通じるなどして、日本の投資家に、「ライオンプレミアム」というFX投資運用サービスについて、FX取引業者とされるGQ社および運用指示を行うトレーダーとされるThink Smart Trading社(いずれも金融商品取引法に基づく登録のない業者)との間で投資一任契約をさせたという媒介行為が、無登録での金融商品取引業にあたるという容疑です。
 今回のスカイプレミアム社の媒介行為は、「投資助言・代理業」(金商法28条3項2号→2条8項13号「投資一任契約の締結の代理又は媒介」)に該当し、無登録でこれを行えば、金商法29条に違反する無登録営業という犯罪(5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金)になります。

 

海外業者と金融商品取引法に基づく登録

 海外に所在する業者であったとしても、日本の居住者を相手方として金融商品取引を業として行う場合は、日本の「金融商品取引法」に基づく登録が必要です。日本で登録を受けずに金融商品取引業を行うことは禁止されており、違反者は罰則の対象となります。
 つまり、業者の所在地にかかわらず、日本国内向けに金融商品取引業を営む場合には金融商品取引法に基づく登録が必要となり、無登録で金融商品取引業を行うことは犯罪となるわけです。
 そして、このことは、業者が海外の金融ライセンスを有しているかどうかとは無関係です。したがって、ライオンプレミアムの件において、FX取引業者とされるGQ社が、仮に海外の金融ライセンスを取得していたとしても、日本国内向けに金融商品取引業を営んでいる場合には、やはり無登録営業の犯罪となります。

 

無登録営業の何が問題か

 スカイプレミアム社もGQ社も金融商品取引業の登録を受けていない無登録業者であり、無登録業者は、「投資者の保護に資すること」をも目的とする金融商品取引法(1条)の規制に違反していますので、不当な利益を得る行為を行うおそれが必然的に高くなります。
 この点については、証券取引等監視委員会も、「無登録の業者が、実際には契約内容のとおりの取引を行っていなかったなどのトラブルが多発しています。無登録の業者には、金融庁の監督権限が及ばず、投資者保護規定に基づく命令・処分等が行えませんので、ご注意ください。」とか、「仮に、海外当局の登録を受けた業者であったとしても、当該海外当局は、他国民との取引について監督・指導等を行わないことや、金融庁と同等の監督権限がないことなどがあります。海外当局の登録を受けたことは、日本と同等の投資者保護規制を担保するものではありませんので、ご注意ください。」などと、無登録営業の場合は投資者の損害につながりやすい(あるいは実際にトラブルが多発している)旨の注意喚起をしているところです。
 つまり、金融商品取引に関する無登録営業は、単に登録がないという形式的な犯罪ではなく、投資家に不利益を与えるという実質的な問題点と密接な関係があります。
 したがって、本件のような金融商品取引法違反の無登録営業による実態不明の海外での投資について、継続的に収益が見込めることや安心な取引であることをエージェントが強調した上で投資家を勧誘している以上は、スカイプレミアム社の幹部はもちろん、そのような取引に投資家を巻き込んだエージェントも、ライオンプレミアムの投資実態および安全性に関して、自身が勧誘にあたって説明する内容に虚偽がないかどうかを十分に調査確認した上で正確に説明すべき義務を負っていたと言えます。

 

民事の損害賠償請求のハードル

 今回、スカイプレミアム社の幹部が金融商品取引法違反という刑事事件で逮捕ということになりましたが、今後、ライオンプレミアムの投資実態に関連して詐欺罪での立件にまで至るかどうかは不明です。
 他方で、刑事と民事は全く別の手続ですので、被害に遭った個々の投資家が、その被害を回復するためには、エージェントなどを相手にして民事の損害賠償請求訴訟を提起することを検討しなければなりません。この場合のハードルとして、①「民事の時効」と②「相手方からの現実的な回収の困難さ」が立ちはだかります。
 ①「民事の時効」は、民法で、被害者が、自分に損害が発生し、加害者が誰か分かってから3年間とされています。スカイプレミアム社の案件では、最短で2021年9月の証券取引等監視委員会の業務差止申立てからカウントして3年、つまり2024年9月で時効という可能性が出てきます。したがって、このときまでに、個々の被害者が裁判所に民事訴訟を提起していなければ、民事の時効にかかって損害賠償請求が認められない可能性が生じるということです。
 もちろん、単に証券取引等監視委員会が申立てをして、それがニュースで報道されたというだけでは、個々の投資家からすれば、まだ本当に被害が発生したのか分かりませんし、エージェントも当時「大丈夫」という説明をしていましたので、実際に時効にかかると判断されるのはもっと後になると思いますが、2024年9月以降の民事訴訟では、エージェント側からそのような時効の主張がされる可能性がありますので、無駄な争点を作らないようにするために、2024年8月までには訴訟提起をした方が無難です。
 ②「相手方からの現実的な回収の困難さ」については、いくら民事訴訟で損害賠償請求が認められても、それが実際に相手方から回収できるかどうかは別問題ということです。相手方が、サラリーマンや公務員であれば、勝訴判決に基づいて給与の差押えができる可能性がありますが、自営業などどこでどのような仕事をしているのかよく分からないような場合や、本人名義の無担保の不動産などめぼしい財産の所在が分からないような場合は、いくら裁判で勝訴しても実際には何ら被害が回復されないケースが多くあります。
 どこにどのような財産があり、そこからどのように回収をするかというのは、一般の方が想像するよりもはるかに難しいもので、この点が、本件のような詐欺的な投資被害の回復における最大のハードルになります。

(2024年2月22日)