〔マンション裁判例紹介〕管理組合の役員候補者を選任するにあたり、理事会の承認を必要とする管理規約の条項は原則として無効であると判断した「東京高等裁判所平成31年4月17日判決」

〔マンション裁判例紹介〕管理組合の役員候補者を選任するにあたり、理事会の承認を必要とする管理規約の条項は原則として無効であると判断した「東京高等裁判所平成31年4月17日判決」

本件の事案の概要

 マンション管理組合法人の管理規約に「役員の立候補には理事会の承認を要する」という条項があったことに対し、理事会の不承認によって役員に立候補できなかった人物が、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた事案です。
 本件では、①立候補者が役員候補者として選ばれるために理事会の承認を必要とする管理規約の効力、②理事会による不承認の決定が不法行為に該当するかが問題となりました。

判決の概要

 本件については、第一審で損害賠償請求が棄却され、控訴審となった東京高等裁判所も同様に請求を退けましたが、管理規約の有効性について重要な判断を示しました。

管理規約の有効性に関する東京高等裁判所の判断

  • 『区分所有法25条1項,49条8項及び50条4項によれば,管理組合法人の役員の選任に関しては,「規約に別段の定めがない限り」集会の決議によって定めることとされており,規約によって,役員の選任方法について別段の定めをすることが認められている。もっとも,規約は,区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならないとされている(区分所有法30条3項)から,これを害するような規約の定めは無効であるというべきである。』
  • 『本件改正条項は,「立候補者が役員候補者として選出されるためには,理事会承認を必要とする」というものであるところ,この趣旨が,承認をするかどうかについて理事会に広範な裁量を与えるものであるとすると,本件管理組合の規約において,一方では組合員である区分所有者に役員への立候補を認めながら,他方で特定の立候補者について理事会のみの判断によって,立候補が認められず,集会の決議によって役員としての適格性が判断される機会も与えられないという事態が起こり得るから,役員への立候補に関して区分所有者間の利害の衡平を害するものであって(同時に,選任者である区分所有者の議決権の行使を妨げるという意味でも,区分所有者間の利害の衡平を害することになる。),区分所有法30条3項に反するものといわざるを得ない。』
  • 『そうすると,本件改正条項は,明示されてはいないものの,成年被後見人等やこれに準ずる者のように客観的にみて明らかに本件管理組合の理事としての適格性に欠ける者については,理事会が立候補を承認しないことができるという趣旨であると解され,その限度で本件改正条項は有効であるというべきである。』

本判決のポイントと判決がもたらす影響

 東京高等裁判所は、区分所有法30条3項を引用した上で、理事会が特定の人物の立候補を認めないことは、総会でその人物の適格性が判断される機会を奪うものであり、原則として無効と判断しました。
 理事会の不承認の判断についても、は裁量権を逸脱する違法なものであり、立候補者が持つ人格的利益を侵害するものと認めましたが、この事案においては過失がないとして損害賠償請求自体は否定しています。
 この判決は、管理組合の運営において、総会の持つ権限の重要性を改めて明確にし、理事会の承認がなければ役員になれないという規約は、区分所有者全員の意思を代表する総会の権限を不当に制限するもので、法的効力を持たない可能性が高く、また、不承認とした場合に理事らの民事責任が問われる場合があり得ることが示されました。
 東京高等裁判所での判断でもあり、管理組合の運営実務に一定の影響があるものと思われます。

(2025年8月27日)