標準管理規約とは
マンションの管理組合は、マンション管理を円滑に行うために、規約を定めることができますが、管理組合が、ゼロから規約を作成するのは実際上困難です。
そこで、マンション管理組合が規約を作成する際の参考にできるようにするために、国土交通省が、一つのモデル(ひな型)として定めているのが標準管理規約です。
実際に、多くのマンションでは、この標準管理規約を参考にして、各マンションの実情に合わせて管理規約を作成しています。
なお、標準管理規約は、あくまでも規約の一つのモデルに過ぎず、法的な拘束力があるわけではありません。ときどき、「標準管理規約に違反している」という言い方をする方がおられますが、標準管理規約自体は守らなければならないという類のものではありません。
2024(令和6)年までに行われた標準管理規約の改正の概要
標準管理規約が公表されたのは1982(昭和57)年ですが、その後、1983(昭和58)年、1997(平成9)年に改正があり、それ以降も、頻繁に改正が行われていますが、その主なものは以下のとおりです。
2004(平成16)年改正の概要
- 「中高層共同住宅標準管理規約」を「マンション標準管理規約」と変更
- 管理組合は、マンション管理士その他マンション管理に関する各分野の専門的知識を有する者に対し、管理組合の運営その他マンション管理に関し、相談したり、助言、指導その他の援助を求めたりすることができる旨を規定
- 建替えに関する規定の整備
- 改正区分所有法の規定を踏まえ、敷地及び共用部分の変更に関し、普通決議で実施可能な範囲を「その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」と規定するとともに、普通決議で実施可能な工事例、特別決議を必要とする工事例をコメントに記載
- 改正区分所有法の規定を踏まえ、電磁的記録による議事録作成や電磁的方法による決議等に関し、管理組合における電磁的方法が利用可能な場合、利用可能ではない場合に分けて規定を整備
- 修繕等の履歴情報の整理及び管理等を管理組合の業務として規定
- 管理組合の業務として、地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成を規定
- 滞納問題に適時適切に対応できるよう、共用部分の管理に関する事項は、原則総会決議で決するところ、未納の管理費等の請求に関しては、理事会決議により、理事長が、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行することができる旨を規定
- 窓ガラス等の開口部に関する工事であって、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上等に資するものについては、管理組合がその責任と負担において計画修繕として実施するものとし、管理組合が速やかに工事を実施できない場合は、区分所有者の責任と負担で実施することについて細則を定める旨を規定
- インターネット通信設備、オートロック設備、宅配ボックス等を共用部分として規定するとともに、給排水管の共用部分の範囲をより詳細に規定
- ペット飼育を認めない場合、容認する場合のそれぞれの規約案文例をコメントに記載
2011(平成23)年改正の概要
- 役員の資格要件の緩和(現住要件の撤廃)
- 理事会による機動的な組合運営が可能となるよう、理事会の決議事項の明確化、新年度予算成立までの経常的な支出を理事会承認により可能とする手続き規定の整備
- 議決権行使書・委任状の取扱いのルールを明確化
- 委任状による代理人の範囲について、標準管理規約本文で限定的に列記するのではなく、コメントで基本的な考え方(代理人の範囲は、区分所有者の立場から利害関係が一致すると考えられる者に限定することが望ましいこと等)を記載
- マンション管理適正化法施行規則の改正が施行されたことを踏まえ、管理費の徴収に係るコメントを改正
- 管理組合が保管する書類などについて、保管責任者の明確化やその閲覧・保存方法について規定を追加
- 共用部分の範囲に関する用語の整理
2016(平成28)年改正の概要
- 理事及び監事について、これまで区分所有者に限定していたものを、選択肢として外部の専門家も就任できるものとし、利益相反取引の防止、監事の権限の明確化などを規定
- 防災・防犯、美化・清掃などのコミュニティ活動が可能であることを明確にし、判例も踏まえた条項として各業務を再整理
- 管理組合が滞納者に対してとり得る各種の措置について段階的にまとめたフローチャートなどを提示
- 暴力団の構成員に部屋を貸さない、役員になれないとする条項を整備
- 災害時などにおける理事長などによる応急的な補修や、緊急避難措置としての専有部分への立入りなどに関する規定を整備
- 大規模修繕工事の実施状況や予定、修繕積立金の積み立て状況などの情報を開示する場合の条項を整備
2017(平成29)年改正の概要
平成29年6月に「住宅宿泊事業法」(いわゆる民泊新法)が成立したことから、マンション内での民泊をめぐるトラブル防止のため、管理規約において、民泊を許容または禁止する場合の規定例を提示
2021(令和3)年改正の概要
- WEB会議システムを用いた総会や理事会の実施ができることを明確化
- マンション内における感染症の感染拡大のおそれが高い場合の対応(共用部分の使用制限など)をコメントに記載
- 共用部分への置き配を認める場合の留意事項をコメントに記載
- 専有部分と構造上一体となった配管の修繕費用を管理組合が負担することについてコメントに記載
- 総会の議事録への出席者の押印などの義務づけの廃止
2024(令和6)年改正の概要
- 組合員名簿の作成・更新の仕組みが明確化され、組合員の住所変更時や専有部分を第三者に貸与する場合の届出義務を明記
- 区分所有者の所在などが判明せず、管理に支障を及ぼす場合において、管理組合が所在等不明区分所有者の探索を行った場合に、その探索に要した費用を当該区分所有者に請求できることを記載
- 総会において、長期修繕計画上の積立予定額と現時点の積立額の差や、修繕積立金の変更予定などを明示することについて記載
- マンション売買時の購入予定者に対する管理情報提供項目例に長期修繕計画上の修繕積立金の変更予定額及び変更予定時期を記載
- 総会・理事会資料の保管に関する規定が追加され、管理規約変更時に変更内容を反映した冊子の作成を推奨
- EV(電気自動車)用充電設備の設置の推進と設置工事を行う際の決議要件の明確化
- 宅配ボックスの設置に係る決議要件の明確化
時代に合わせたマンション管理規約の必要性
マンション標準管理規約は、法律の制定・改正や社会の変化などに合わせて常にアップデートされており、各管理組合の規約も、これに準じて定期的に見直すことが望ましいものです。
最近では、特に、建物の老朽化と居住者の高齢化によって、管理組合の担い手不足、総会運営の困難化、所在不明区分所有者の発生、修繕積立金不足など、多くの深刻な問題が起きています。
これらの問題に対応するためには、古いままの管理規約を急いで見直すことが不可欠で、規約のアップデートを怠れば、近い将来のマンション管理の不全を招き、居住環境の悪化や資産価値の低下に直結することになります。
実際に管理規約を改正するにあたっては、各管理組合の実情や区分所有法との整合性をとらなければならず、専門的な知識や実務経験を要しますので、マンション管理の実務にたけた弁護士やマンション管理士などの専門家を積極的に活用することが不可欠です。
標準管理規約の改正は今後も継続的に行われると予想されますが、特に2025(令和7)年には区分所有法の大改正(2026年4月1日施行)があり、これをふまえた管理規約の改正に向けて、各管理組合の積極的な対応が求められています。
(2025年8月15日)